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夢…獏の喰わぬ夢
第5章 夢の中
遠くに見える階段を先頭を切って誘導するのは、やはり彼女だった。
皆に、『慌てることはない。順番など意味がなく譲り合いながら登れば皆が到達する。』と各々の言語で説明する。
僕は彼女に自分の存在を伝えたい。
彼女に、僕も来ていることを知らせると同時に、彼女と共に先頭を歩くのは自分だと知らしめる為に…。
雷が轟いて、何かの怒りに触れたことに皆が気付く。
階段の頂上付近から、降りてくる人が見える。
「だから、言語を分かち離れ離れにしたのに、
あなたは、またそれをひとつにまとめようとする。
それが愚かで危険なことと知りながら。」
上からの人の声だ。
「それぞれが、あなたのように高みを極めればよいことだ。
あなたがまとめることは愚かだ。」
上からの人の怒りは、彼女に向けられたものだった。
それでも大勢の人は、彼女に寄りすがる。
彼女は答えた。
「大丈夫、皆が助け合えば…」
答えなのかわからない。
上からの人は、雷をさらに震わして怒りを示す。
「各々に任せなさい。そうしないと、皆が自らを滅ぼしてしまう。」
彼女のすぐ下の階段が音を立てて崩れ落ちる。