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僕だけの母さん
第4章 欲望
どっちにしてもそこまでだった。

母さんは次の駅で降りた。

ふらつきながら歩いてやっとの事でホームのベンチに腰を下ろした母さんはがっくりと疲れ切ったように項垂れていた。

僕は距離をとってそんな母さんを見守った。

何人かの乗客が具合の悪そうな母さんに声をかけている。

そのたびに母さんは弱々しく顔を振って大丈夫だと説明している様子だった。

(くそっ!痴漢の奴、母さんにどんな悪戯をしたんだよ?)

途中までは順調に進んでいたのに・・

所詮は中学生の考えた低レベルのアイデアか・・

僕は自分にがっかりした。







「ねえ、母さんは父さんとどこで知り合ったの?」

その夜、母さんと二人で夕食を摂りながら、聞いてみた。

「え・・?何よ突然・・」

母さんは一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに苦笑いして聞き返してきた。

「だって、母さんと父さんは仲が良いからさ。どんな出会いをしたのかな?と思って」

「ウフ、それがね。私が勤めていた銀行にお父さんが毎日通ってきたの♪」

「毎日?」

「うん、そして必ず私の所にきてお金を積んだり下ろしたり・・。でも、ろくに話もしないですぐかえっちゃうし・・」

母さんは昔を思い出したようにクスッと笑った。

「へー、それって地味でトロい父さん流のナンパだね♪」

「ウフ、今思えばそうかもね♪」

母さんは昔を懐かしんで嬉しそうだった。

「それで・・?どうやって仲良くなったの?」

「それがね♪ある日、お父さんが通帳に紙を挟んでよこしたの♪」

「紙を?」

「そこにね、自分の名前と会社名と会社の電話番号が書かれていて、私に電話をかけてほしいと書いてあったわ♪」

「え~♪ビックリ!」

「最初は私もビックリしたけど、お父さんがあまりにも真面目な顔でハンカチで汗を拭きながら頭を下げるもんだから・・」

そこまで言って、母さんは堪え切れなくなったようにウフフと笑い始めたのだった。

「へー、あの父さんがね♪窓口にいる母さんに一目惚れしちゃったんだね?」

「そうかも♪」

その夜の夕食はいつもより美味しかった。

何より、昼間嫌な思いをさせてしまった母さんの笑顔が見れた事が嬉しかった。


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