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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「それで、相談って何ですか?姫様」
「…やっぱり、落ち着く…」
スグリ姫は抱き締めていたクッションを離して、立ち上がってクローゼットに歩いて行きました。

「バンシルだけは、ずーっと『姫様』って呼んでくれたらいいのに」
「それは出来かねます、『奥様』」
姫は不服そうにぷうっと頬っぺたを膨らませ、バンシルはまた呆れた様に溜め息を吐きました。

「春から先は、ずっとここで奥様としてお暮らしになるのでしょう?只でさえ、姫様はよそのご夫人方より娘時代が長かったのですから…公的には、今はスグリ様、春からは奥様です。姫様姫様呼んでいたら、気取っている様にも見えかねませんよ?こちらの皆さんに、良い印象を持って頂きたいですからね。姫様とお呼びするのは、内々だけです」
「じゃあ、内々では、一生姫様って呼んでくれるの?」
もっともすぎる説明を聞いてもなお、スグリ姫はバンシルに食い下がりました。生まれたときから一緒で、物心付いた時から姫様と呼んでくれたバンシルに奥様と呼ばれるのは、姫には淋しいことだったのです。
しかし、バンシルは姫の気持ちを知ってか知らずか、呆れ果てた様に言い放ちました。

「一生は、ちょっと…ご懐妊なさって、出産されて、お母様になられても、姫様って呼ばれたいんですか?」
「ごっ?!しゅっ!?おっ…!!」
呆れ顔で放たれた「ご懐妊」「出産」「お母様」の三つの言葉で、姫の頭の中に物凄い速さであらゆる妄想が駆け抜けました。結果的に姫は、「姫様」呼びがどうのこうのという話をすっかり忘れ、その場にしゃがみ込んで悶え始めました。

「…あの、そろそろ悶えるの止めて、現実に戻って来て下さい。ご相談は何ですか?」
「……あ。そうだわ」
しばらく悶えた後に声をかけられた姫ははっとして、自分に似た娘とサクナに似た息子が仲良く遊んでいるのを二人で眺めて微笑み合う…という妄想から帰って来ました。
そして床から立ち上がってクローゼットを開け、何かを取り出しました。

「見て!御披露目のドレスが、出来上がって来たの!」
スグリ姫が両手で大事そうに抱えてきらきらした笑顔で見せてきたドレスに、バンシルは目を見張りました。
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