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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
……さて。
その日の午後になりました。

「頼みって、なにっ」
姫は自室の長椅子に納まり、クッションを抱えてむすっとしながら、婚約者を迎えました。

「お?ご機嫌斜めか、『奥様』は」
「…っそんなことっ、ないもんっ」
スグリ姫はご機嫌斜めだった訳でも、怒っていた訳でもありません。
ただ、今朝の、自分だけがどきどきむずむずした一件が、朝からずっと気恥ずかしかったのです。

「そうか?」
サクナは持っていた何やら入っているらしき籠をテーブルに置き、姫の斜め前の椅子に座りました。そして不機嫌さを潜めた穏やかな表情で、姫の髪をゆっくり撫でました。

「…そうよ。」
髪を撫でられているうちに、姫の気恥ずかしさは毛並みを逆立てた猫が少しずつ大人しくなるように、だんだん溶けて行きました。
そして、姫自身も気付かないくらい僅かな重みが撫で続けている手に預けられたのを感じたサクナは、微かに口元を緩めると、髪を撫でていた手ですっと姫の頬を撫でました。

「そんなお前に、打って付けの頼みが有るぞ」
「…え?それ、なあに?」
髪と頬を撫でられてすっかりいい気分になった姫はふにゃんと微笑んで、サクナの言葉に尋ねるともなく尋ねました。


「今から自分で自分を慰めて、イッてみせてくれねぇか」

「……………………………………………………ぅぇええええええええええええっ!?!?」


まるで、リンゴを剥いて六つに割ってくれとでも言うような口調で告げられたとんでもない「頼み」に、スグリ姫は狼狽えました。

「っサクナっ……それ、打って付け、なの…?…それより、サクナって、もしかして、『へんたい』なの…?!」
「へんたい」というのは、スグリ姫が最近憶えた言葉でした。
姫は先日、下ネタの師匠であるビスカスがローゼルに「この、変態っ!!」と言われて引っ叩かれているのを見たのです。スグリ姫はビスカスの頬っぺたを冷やすのを手伝ってやり、御礼に「へんたい」の意味を教えて貰ったのでした。
ビスカス直伝の言葉を聞いて、サクナはそれまで見せていた彼にしては珍しい穏やかな表情から、たちまちいつもの不機嫌顔になり、眉を顰めました。

「お前…どこで憶えたんだ?その『変態』って言葉」
「え?どこで?…えーっと…どこでかしら…どこでかはっ、忘れちゃったっ!!」
えへへへー?と笑うスグリ姫を、サクナは疑わしそうな目で見ました。
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