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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「おやおや。楽しそうだね?」
ビスカスがローゼルとサクナによって両側から冷たい態度で圧迫されている所に、張りと威厳のある快活な声が聞こえて来ました。

「領主様」
「お父様」
挨拶を終えても入口でじゃれ合っていた一同は、今日の主賓の一人の登場に、サクナと姫に「また後で」と目礼し、二人を残して宴席に移動して行きました。

「お目出度う、スグリ姫様。本日は、お招き頂いて有り難う」
「お目にかかれて、嬉しいですわ。お越し頂き、ありがとうございます」
領主はにこやかに挨拶を返したスグリ姫を見て、微笑んで頷きました。

「お目出度う、サクナ。…まずは、様々な出来事の末に素晴らしい奥方様を迎えられるに至った事に、心よりお祝いを申し上げよう」
「…有り難う御座います」

領主の言葉とサクナの淡々とした返答を聞いて、姫はうっかり忘れていた大事なことを思い出しました。
領主は姫の九十九人目の、そして正式に申し込まれた最後のお見合い相手の、タンム卿の父親でありました。それに加えて、この家の大きな決め事についての決定権を握っている会議の、メンバーの一人でもありました。会議は姫とサクナの結婚に一度は異を唱えたと言うことは、姫も聞かされておりました。
それらを考えると、領主が言った「様々な出来事」の中には、領主にとっては都合のあまり宜しくなかったその二つの件が、確実に含まれて居る筈でした。

その事に気付いた姫は、そっとサクナの指に触れました。冷たく強張った指は触れると一瞬ぴくっとしましたが、姫が暖かさを分けるように緩く握ると、姫の指をすっと掬い取って、優しく指を絡めて握り返してくれました。
手を握られた姫は、知らない間に自分が息を詰めていたことに気が付きました。繋いだ手がまるで自分を落ち着ける錨であるかのように感じられて、いつも自分に誰より優しく触れるその掌に頼るように、ゆっくりひとつ、深呼吸をしました。
姫の手を握ったサクナは、薬指を滑らせて姫の指輪を探り当て、指輪を柔らかく撫でました。姫の温かさが繋いだ手からじんわりと伝わって来て、もうすぐ妻になるこの女が自分に丸ごとの信頼を捧げてくれているという事を、言葉よりも強く感じさせてくれました。
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