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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「みっ…みなさま、そのお話は、そのくらいにされては」
口にした本人が全く気付いていない凄まじい惚気で姫を除くその場の全員が毒気を抜かれたのを見て、若奥様が話題を変えようとされました。

「…そうですわね!お話も良いですけど、せっかくの機会ですから、主人っ…の作ったお酒や果物を、みなさんに召し上がって頂きたいですわ!」
姫は自分もさくらんぼ酒のグラスを持つと、奥様方にお勧めし始めました。
「自慢みたいで、恥ずかしいんですけれど…うちっ…のお酒は、本当に、すごーく美味しいんですのよ?」
そしてグラスをうっとり眺めて、ほやーんと幸せそうに笑いました。

「それに、すごーく、気持ち良いし…」
「…気持ち、良い…」
姫はグラスを眺めながら「エロい気分になれる酒」のことを思い出してしまい、口にするともなくぼんやりと呟きました。手に持っていたグラスが、あの時二人で使ったのと同じ物だったからです。姫がくふんと夢見るように微笑むのを見ていた奥様方は無意識にごくりと唾を飲み込んで、はっとして慌てて酒を口に運びました。

「確かに、美味しいですわ」
「ね!果物と結婚したいって思うような人の作る、果物のお酒ですものねー!」
普段からご機嫌な上に更にご機嫌になってきたスグリ姫は、奥様方がお酒を楽しまれている様子を見て、妻の務めを果たせている実感に、くふふっと嬉しそうに笑いました。

「…ええ……そう、ですわね…」
奥様方は、この屋敷に嫁ぐ余所者の嫁から当主の今迄の興味深い噂についての真相を聞き出そうとするのを、諦めました。
姫の話を聞いていて、この館の当主は夫婦生活に興味が無かったのでも女に興味が無かったのでも果物にしか欲情しなかったのでも無く、単に女性の好みが甚だしく狭かったために、好みの女性に巡り会う機会が無かったのではないかと思えて来たからです。

それで今度は、嫁御様の方の噂を酒の肴にするべく、目引き袖引きして、姫に話題の鉾先を変えました。
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