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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「…いえ、別に変な下心等は」
「大丈夫、分かってるわ!私が酔っ払いだって、思ってるんでしょ?」
「…いえ…まあ…」
「大丈夫よ、そんなに酔っ払って無いわ。ちゃんと行って来れるから!任せて!」
「…はあ」

クロウが姫を心配した理由は、姫が沢山の奥様方から果実酒を購入したいと言われたという話が、眉唾であると思ったからでした。
この家の果実酒は確かに甘く飲みやすく女性の好む味の酒では有りましたが、注文が殺到する様な酒ではありません。希少な材料が必要で製造に時間も掛かる為に高価な物で有りますし、それなりに強い酒でも有りますので、気軽に消費される様な万人向けの酒では無いのです。しかも、家々の主ではなく奥様方が挙って果実酒を注文された事など、クロウの知る限りの長い過去に於いても、一度も憶えが有りませんでした。
ですので、それは姫の勘違いか、奥様方の口先だけの社交辞令を鵜呑みにした結果ではないかと思ったのです。そのどちらであったにしても、酔っ払った姫がうっかり素直に疑いもなく、人を信じ込んだ結果でしょう。普段でさえ騙されやすい姫が酔っ払って一人でふらふらした上に、いつも以上にうっかりを発動したら困った事になるのではと、クロウは心配したのです。

「ほんとに、本っ当に、大丈夫だから!」
姫は確かに自分で言っている通り、クロウが思っているほどは酔っ払ってはおりませんでした。酒に酔っていると言うよりは、「妻の務め」の余韻の方に、酔っ払って浮かれていたのです。
「だから、クロウさんは気にしないで、クロウさんのお仕事してて下さいっ!」
「あ、お待ちく…」
「では、行って来まーす!」
クロウが、自分でなくとも誰かと一緒に行くようにと言う間もなく、姫はふわふわと楽しげな足取りで、部屋を出て行ってしまいました。


…余談ですが。
結果的には姫の言った事は全て事実で、この会のあと奥様方の間では、果実酒が秘かに流行する事になります。そのため屋敷では手持ちの在庫が激減し、翌年の生産量を増やそうと言う事態にまで発展するのですが、慧眼のクロウでさえこの披露目の会の時点では、そこまで見通す事は出来ませんでした。
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