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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「あ?スグリが?」
「ええ。お手洗いに行かれるとかで」
必要な社交をこなし一息吐いた所で、サクナはクロウに声を掛けられました。
「一人で行かせたのか」
「ご一緒したいと申しましたら、お断りされましたもので」
それを聞いたサクナは、舌打ちしました。
「断られても付いてきゃ良いだろ」
「相済みません。断固として、断られまして」
「仕方ねぇか…あいつ、時々強情になんだよな」
「淑女の退席に着いてくるなんて絶対駄目、気にしないでお仕事して下さい!…だそうで御座います」
「…くっ。淑女は手洗いに行く事をわざわざ報告しねぇだろうし、お前がスグリに付いて行くのも仕事だろうがよ」
サクナは軽く吹き出して、扉の向こうを愛おしげに眺めました。
「…スグリ様は、不思議な御方で御座いますね」
「ん?」
「気が付かぬ間に、こちらの思惑から平気ではみ出しておられます」
「そりゃあ、スイカの木を探す女だからな」
「…スグリ様なら、見付けかねませんね…」
クロウは自分の予測を裏切る姫のあれこれを思い出し、うっすら笑いました。
「惚れるなよ。俺んだ」
「そこまでの物好きでは御座いません」
「…迎えに行って来る」
クロウは堂々と宣言して手洗いに行った淑女をわざわざ迎えに行くという物好きに頭を下げて、扉を開けました。
そこへ、何かの影がふらっと過りました。
「…っ!?」
「……ぁ」
それは、スグリ姫でした。
「スグリ?!」
「…サクナぁ…っ」
「お前、どうし…!」
咄嗟に支えた姫を見ると、顔色を無くし涙をぽろぽろ零しながら震えて居ます。よく見ると、先程ご婦人方の席に送り出した時とは、姿が変わっておりました。
それに気付くなりサクナは姫を抱き上げクロウに目配せして扉を開けさせて、そのまま大股で宴席から離れました。
「…お前…髪!」
慌ただしく支度部屋に入り姫を椅子に降ろして検分したサクナは、ぞっとしました。
絹糸の様に綺麗な髪は解れて、顔に近い右側が、以前サクナに渡す為に切った時よりざっくりと、無残に切られておりました。
その上。
「…何だ、これは…!」
姫のドレスは、胸元のクリーム色が下に向かうにつれて赤味を増して行くデザインです。その為、ぱっと見ただけでは、異変に気付かなかったのですが。
サクナに肩を抱かれて震えている姫のドレスの、クリーム色だった胸の辺りは、血赤に染まっておりました。