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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様



「それでっ……ビスカスさんがっ、止めてくれてっ…手と、体と、二回刺されて、血が…サクナか、クロウさんに、伝えてって…」
姫を庇ったのは、ビスカスでした。
姫がそれを必死で説明している間に、クロウが静かに部屋に入って来ておりました。

「サクナ様」
「クロウ。ビスカスがこいつを庇って刺されたらしい。東の奥に居るそうだ。刺したのが若奥様だってのが、腑に落ちねぇが…事を荒立てたく無え。行って良い様に計らってくれ」
「承知致しました」
「俺も、こいつが落ち着いたら行く」
「お任せ下さい。今は、とにかくスグリ様を…ご無理なさらず」
「ああ」
クロウが部屋を出るのを見送るとサクナは姫を抱き直し、髪を切られた辺りを優しく撫でて囁きました。
「スグリ?もう大丈夫だ、クロウを遣った。お前の言いたかった事はみんな分かったから、我慢しねぇで泣いていいぞ」
「っ…うー…」
「…怖かったよな…」
サクナは姫を抱き締めて髪や背中をゆっくり撫でて、髪や額や頬やあちこちに口づけました。

「…若奥様が…いつもと、全然違ってっ」
「ああ」
サクナは泣くのを堪えて引き結ばれた唇を親指で撫で、緩く解れたところで、ちゅっと口づけました。それが離れた瞬間に逆に姫の方から求められ、姫が離れようとするまで何度も口づけを交わしました。

「…っ…ビスカスさんっ…」
「大丈夫だ。クロウが行った」
姫の無事を確かめるように体を弄り、撫でながら、サクナは姫に囁きました。
「…サクナも、行って!…私も行く、行かなきゃ!」
「お前」
腕の中でまだ震えているのにビスカスの元に戻ろうとする姫に、サクナは眉を寄せました。

「無理すんな。ここに居ろ。お前だって、一つ間違ったらどうなってたか」
ぎゅっと抱き締めて頬擦りされた姫は、乱れた息を整えるように、何度か大きく呼吸しました。

「だって…私のせいで、刺されたのに」
「お前のせいじゃねぇよ。それに、あいつは大丈夫だ」
「どうして!?あんなに、血が」
「お前と違って、あいつは痛い目に遭うのにゃ慣れてんだ。その位の目にゃあ、今までも何度も遭ってる」
「え、なんで」
「知らなかったか。あいつの仕事は、用心棒だ…あいつは、ローゼルの護衛だ」
「ええっ?!」
姫は、心底驚きました。ビスカスがローゼルの家の使用人だとは聞かされて知っていましたが、単なるお付きの人だと思っていたのです。
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