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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「奥様。他に何かご用はお有りですか?」
お披露目の会の夜。スグリ姫は自分の部屋で、デイジーに尋ねられました。
バンシルとヴァイオレットは他の用事をしているので、今日はデイジーとマーガレットが寝支度を手伝ってくれています。
例によってマーガレットはほとんど喋りませんので、仕事は二人でしておりましたが、声がするのはデイジーだけです。
「ありがとう、充分よ。下がってくれて構わないわ」
「かしこまりました」
「デイジー、マーガレット。二人とも、今日は本当にありがとう」
「私共こそ、有り難うございます。奥様の晴れの日のお手伝いが出来て、光栄でした」
デイジーの答えにマーガレットも頷いて、二人は頭を下げました。
「ゆっくり休んでね。デイジー、ヴァイオレットは今夜は客間の隣で休むから、何か有ったらマーガレットをお願いね」
「承知致しております。おやすみなさいませ、奥様」
おやすみ、と侍女を送り出したスグリ姫は、二人が用意してくれたお茶の乗っているテーブルの前に座りました。今日一日忙しかった姫が安眠出来るようにと、気持ちをゆったり穏やかにさせる薬草と、干果物が入ったお茶です。
実のところ姫の中には、ゆっくりお茶を楽しむ様な落ち着いた気持ちはこれっぽっちも無かったのですが、せっかくの二人の心遣いです。有り難く受け取ることにして、一杯だけお茶を飲むことに致しました。
「…いい匂い」
淡い黄色のお茶をカップに注ぐと、湯気と共に甘さと爽やかさの混じった香りが立ち上りました。
一口飲むと、軽い酸味と仄かな甘味が香りとともに広がって、喉を優しく潤してお腹に落ちて行きました。
お茶を飲んで少し温まり、気持ちが解れたスグリ姫は、隣室との間の扉に目をやりました。
隣室の主は、今日の出来事の後始末が終わらない様で、まだ戻ってきて居りません。
お茶のカップをお皿に戻し、姫は小さく溜め息を吐きました。
姫とサクナがビスカスの元に着いたのは、先に到着していたクロウが応急処置を終えた頃でした。
ビスカスを床に横たえ、傍らに片膝を付いて座ったクロウは、ビスカスの服を窮屈で無い様に緩めてやっておりました。
その横にはローゼルが座り込み、表情の無い疲れた顔で、手当ての様子をぼうっと眺めておりました。ローゼルのドレスも姫同様に血が付いてはおりましたが、元がオレンジ色なので、余り目立ちませんでした。