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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第5章 桃と来客
「…けど、あんな風に、ぼーっと食べちゃって…」
「あ?ぼーっとしてたから桃食わせたんだぞ?あれじゃ飯食えねぇだろ」
「でも、一番良いのなんて…そんなのを私が食べちゃって、良かったのかしら…」
「良いに決まってんだろ」
「だけど」
「サクナ様」
姫とサクナのやり取りが終わらなさそうなのを見かねたのか、クロウが割って入りました。
「何だよ」
「そろそろお客様をお迎えするお支度をなさらないと、お時間が」
クロウにそう言われたサクナは、ちっと舌打ちしました。
「もうちょっと待てねぇのか」
「…御当主がお出になれないのでしたら、婚約者様にお迎えして頂きましょうか?」
クロウにそう言われたサクナは、また舌打ちして扉の方に向き直りました。
「…分かった、行きゃ良いんだろ、行きゃ。スグリ、この続きは後でな。バンシル、悪ぃが頼む」
そう言い捨てるとそのまま、早足で扉を出て行きました。
「スグリ姫様?」
「はい」
残されたスグリ姫は、桃を取りに行かなくちゃと立ち上がった所で、クロウに呼び止められました。
「差し出がましいとは存じますが、御当主に代わって申し上げます。此方で作られる中で最上の物を召し上がる事は、スグリ様のお仕事でもあるのですよ」
「…仕事?」
クロウの言った言葉は、姫にとって思いも寄らぬ物でした。
「貴女様は、これからこの家の奥方様になられます」
「奥っ…」
姫は「奥方様」という単語に反射的に悶えましたが、相手がクロウだったので、込み上げた悶えたい気持ちを全力で抑え込みました。
「当主が家の外での頂点であるならば、奥方様は家の中での頂点です。この家は果物を生業とする家でございます。最も良い物が何かを知らない奥方様に、家の者が着いて行く気になりますでしょうか」
「良い物を、知らない…」
(『何もご存じないんですのね』って、もしかして、そういう意味も有ったのかしら…)
クロウの言葉を聴いた瞬間に、聞いた時は気に留めていなかったローゼルの一言が、蘇りました。
(私、ほんとに…果物のことも、このお家のことも、この土地の事すら、知らないもの…そんな人を急に奥方様だって言われても、納得出来ないのは、当たり前だわ…)
「スグリ様?」
「はい」
「ご心配は無用で御座いますよ」
ローゼルの言葉を思い出して萎れた姫に、クロウはゆっくり、言い聞かせるように言いました。
「あ?ぼーっとしてたから桃食わせたんだぞ?あれじゃ飯食えねぇだろ」
「でも、一番良いのなんて…そんなのを私が食べちゃって、良かったのかしら…」
「良いに決まってんだろ」
「だけど」
「サクナ様」
姫とサクナのやり取りが終わらなさそうなのを見かねたのか、クロウが割って入りました。
「何だよ」
「そろそろお客様をお迎えするお支度をなさらないと、お時間が」
クロウにそう言われたサクナは、ちっと舌打ちしました。
「もうちょっと待てねぇのか」
「…御当主がお出になれないのでしたら、婚約者様にお迎えして頂きましょうか?」
クロウにそう言われたサクナは、また舌打ちして扉の方に向き直りました。
「…分かった、行きゃ良いんだろ、行きゃ。スグリ、この続きは後でな。バンシル、悪ぃが頼む」
そう言い捨てるとそのまま、早足で扉を出て行きました。
「スグリ姫様?」
「はい」
残されたスグリ姫は、桃を取りに行かなくちゃと立ち上がった所で、クロウに呼び止められました。
「差し出がましいとは存じますが、御当主に代わって申し上げます。此方で作られる中で最上の物を召し上がる事は、スグリ様のお仕事でもあるのですよ」
「…仕事?」
クロウの言った言葉は、姫にとって思いも寄らぬ物でした。
「貴女様は、これからこの家の奥方様になられます」
「奥っ…」
姫は「奥方様」という単語に反射的に悶えましたが、相手がクロウだったので、込み上げた悶えたい気持ちを全力で抑え込みました。
「当主が家の外での頂点であるならば、奥方様は家の中での頂点です。この家は果物を生業とする家でございます。最も良い物が何かを知らない奥方様に、家の者が着いて行く気になりますでしょうか」
「良い物を、知らない…」
(『何もご存じないんですのね』って、もしかして、そういう意味も有ったのかしら…)
クロウの言葉を聴いた瞬間に、聞いた時は気に留めていなかったローゼルの一言が、蘇りました。
(私、ほんとに…果物のことも、このお家のことも、この土地の事すら、知らないもの…そんな人を急に奥方様だって言われても、納得出来ないのは、当たり前だわ…)
「スグリ様?」
「はい」
「ご心配は無用で御座いますよ」
ローゼルの言葉を思い出して萎れた姫に、クロウはゆっくり、言い聞かせるように言いました。