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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第5章 桃と来客
「まあ、今のスグリ嬢なら、大丈夫だろう」
タンム卿は薄く微笑んで、桃の皿の上の銀器を手に取りました。
「都でお会いした姫が青い桃だとしたら、今のスグリ嬢は差し詰めこの桃だな。香りも味も悪くは無かったが青くて固かった桃が、今ではこうだ」
タンム卿は桃を切り分けて口に運んで味わうと、にっこり笑って言いました。
「艶やかで美しく、甘く柔らかく瑞々しい。素材が良かった事も有るだろうし、それを見抜いて手を掛けて、ここまでにした者の手腕も素晴らしい」
「…人の嫁を嫌らしい目で見んな」
機嫌良さげに語るタンム卿と対照的に、サクナはこの上なく不機嫌そうに唸りました。
「おや。スグリ嬢にも君にも、賛辞を送っているつもりなんだが…桃の話をする位は、許して欲しいものだね」
「そいつが美味いことなんざ、言われねぇでもとっくに知ってんだよ。食ったらさっさと仕事するぞ」
引き出しを開けて書類を出したサクナは、書類と入れ替わりに懐から何か細長いものを出してそこに仕舞いながら、部屋の中の誰にも見えないくらい僅かに口元を綻ばせました。
「はいはい。餞に、一つ良い事を教えてやろう。狭量な夫は疎んじられるぞ」
「独り者の戯言なんざ知るか。食い終わったなら無駄口叩いて無ぇで、予定決めるぞ」
サクナは立ち上がると、壁に作り付けの棚から暦を取って、机に置きました。
それから、来年に向けての長い相談が始まったのでした。
タンム卿は薄く微笑んで、桃の皿の上の銀器を手に取りました。
「都でお会いした姫が青い桃だとしたら、今のスグリ嬢は差し詰めこの桃だな。香りも味も悪くは無かったが青くて固かった桃が、今ではこうだ」
タンム卿は桃を切り分けて口に運んで味わうと、にっこり笑って言いました。
「艶やかで美しく、甘く柔らかく瑞々しい。素材が良かった事も有るだろうし、それを見抜いて手を掛けて、ここまでにした者の手腕も素晴らしい」
「…人の嫁を嫌らしい目で見んな」
機嫌良さげに語るタンム卿と対照的に、サクナはこの上なく不機嫌そうに唸りました。
「おや。スグリ嬢にも君にも、賛辞を送っているつもりなんだが…桃の話をする位は、許して欲しいものだね」
「そいつが美味いことなんざ、言われねぇでもとっくに知ってんだよ。食ったらさっさと仕事するぞ」
引き出しを開けて書類を出したサクナは、書類と入れ替わりに懐から何か細長いものを出してそこに仕舞いながら、部屋の中の誰にも見えないくらい僅かに口元を綻ばせました。
「はいはい。餞に、一つ良い事を教えてやろう。狭量な夫は疎んじられるぞ」
「独り者の戯言なんざ知るか。食い終わったなら無駄口叩いて無ぇで、予定決めるぞ」
サクナは立ち上がると、壁に作り付けの棚から暦を取って、机に置きました。
それから、来年に向けての長い相談が始まったのでした。