この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第8章 木柵とリンゴ
「…サクナは、すごい人なのね…」
「ん?何だそりゃ」
「だって…」
姫が食べかけた桃を来客に出すと聞いた時に、クロウから「一番美味しいものを知るのが奥方の役目」とは聞きましたが、サクナの話を聞いてリンゴを食べて、姫は自分が目の前の事しか見ていなかった事に気が付きました。 奥方としてこの家に入ると言う事は、今生きている周りの人にも、もう居ない先代当主やまだ居ない次の世代にも、何かしらの影響を与えるということなのです。
この家の当主にとっての果物には、単に味とか貴重さとか価値とかだけではない、もっと大きな意味があるのだということを姫は感じたのです。
現当主は果物馬鹿だとクロウは言いましたが、それは果物が好きだとか果物を扱っている人間という意味ではなくて、果物と分ち難く生きる人間という意味なのだと姫は思うようになりました。
姫の頭の中はそういう想いで一杯になったのですが、それを上手く言葉にするのは、姫には難しすぎました。
「…だってサクナは、 当主様だし、働いてる人に尊敬されてるし、リンゴも割れるし、果物のことは何でも分かるし、何でも教えてくれるし、」
頭が一杯になってぐるぐるしてきた姫は、思ったことを順番に口に出しました。
「…そうでも無ぇぞ」
「え?」
「全然凄かねぇぞ。特に、お前の旦那としちゃあまるで駄目だな」
「へ?」
「果物の事が何でも分かっても、お前の事はまるで分かっちゃ居なかった。お前の気持ちが、ようやく少しだけ分かった…かも知れねえ」
「え?」
「柵のことで、アダンがお前を褒めたろ」
「うん」
「お前が褒められると、すげえ嬉しいのな。お前と同じで、俺もお前を自慢したくなった」
サクナはそう言って、姫の髪を手ですくってはさらさらと落とすように撫でました。
「アダンの話を聞いて、お前に何もしねぇでただ居てくれりゃあ良いって言うのは、俺の我侭かも知れねぇと思った」
「わがままなんて、そんな」
「お前にはお前のやりてぇ事が有って、それは俺が思いも付かねぇような、突拍子もねぇもんかも知れねえ…と言うか、突拍子もねぇ事の方が多そうだからな。いや、突拍子もねぇ事ばかりかもしれねえ」
サクナの呟きの内容は、だんだん身も蓋もなくなって行きました。けれど、今までのことを振り返ると違うとも言えないと、姫は少しだけ神妙な気持ちになりました。
「ん?何だそりゃ」
「だって…」
姫が食べかけた桃を来客に出すと聞いた時に、クロウから「一番美味しいものを知るのが奥方の役目」とは聞きましたが、サクナの話を聞いてリンゴを食べて、姫は自分が目の前の事しか見ていなかった事に気が付きました。 奥方としてこの家に入ると言う事は、今生きている周りの人にも、もう居ない先代当主やまだ居ない次の世代にも、何かしらの影響を与えるということなのです。
この家の当主にとっての果物には、単に味とか貴重さとか価値とかだけではない、もっと大きな意味があるのだということを姫は感じたのです。
現当主は果物馬鹿だとクロウは言いましたが、それは果物が好きだとか果物を扱っている人間という意味ではなくて、果物と分ち難く生きる人間という意味なのだと姫は思うようになりました。
姫の頭の中はそういう想いで一杯になったのですが、それを上手く言葉にするのは、姫には難しすぎました。
「…だってサクナは、 当主様だし、働いてる人に尊敬されてるし、リンゴも割れるし、果物のことは何でも分かるし、何でも教えてくれるし、」
頭が一杯になってぐるぐるしてきた姫は、思ったことを順番に口に出しました。
「…そうでも無ぇぞ」
「え?」
「全然凄かねぇぞ。特に、お前の旦那としちゃあまるで駄目だな」
「へ?」
「果物の事が何でも分かっても、お前の事はまるで分かっちゃ居なかった。お前の気持ちが、ようやく少しだけ分かった…かも知れねえ」
「え?」
「柵のことで、アダンがお前を褒めたろ」
「うん」
「お前が褒められると、すげえ嬉しいのな。お前と同じで、俺もお前を自慢したくなった」
サクナはそう言って、姫の髪を手ですくってはさらさらと落とすように撫でました。
「アダンの話を聞いて、お前に何もしねぇでただ居てくれりゃあ良いって言うのは、俺の我侭かも知れねぇと思った」
「わがままなんて、そんな」
「お前にはお前のやりてぇ事が有って、それは俺が思いも付かねぇような、突拍子もねぇもんかも知れねえ…と言うか、突拍子もねぇ事の方が多そうだからな。いや、突拍子もねぇ事ばかりかもしれねえ」
サクナの呟きの内容は、だんだん身も蓋もなくなって行きました。けれど、今までのことを振り返ると違うとも言えないと、姫は少しだけ神妙な気持ちになりました。