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嫌がらせ
第1章 嫌がらせ
「いきなりこんなことを聞くのは不躾だと思うが……千鶴と、結婚は考えているのか? 小野田くん」
はい、と彼ははっきり答えた。
「まだ彼女と具体的に話はしていませんが、俺は、千鶴さんと結婚したいと思ってます!」
彼は25歳、私は29歳。二人の間に結婚というワードが出たことはほとんどなかったが、お互いそのつもりであることは、察していた。だが────
「では、娘の──千鶴の身体については、君はどう考えているのかね?」
彼はぽかんとした。
その時、私は重大なミスを犯してしまったことにようやく気が付いた。
焦る私に、父が続けた。
「千鶴のその……子供を産めない身体について、だ」
「子供を……産めない?」
彼のオウム返しに、私はさっと血の気が引くのを感じた。
彼には、がんの発症から今回の手術に至るまでの全てを、一切話していなかった。
入院のことは、仕事が忙しい時期になるから、と嘘をついてひた隠しにしていた。
彼の様子に気付くと、父は私に問いかけた。
「千鶴……お前……この人に話していないのか」
私はゆっくりと頷いた。もう何も言うまい。
ごめんなさい、と謝り、彼に経緯を話した。
説明している間、隣に座る彼の顔を見ることができなかった。嘘をついていた罪悪感と、この後見せる彼の拒絶を想像したら、今にも吐きそうになった。