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嫌がらせ
第1章 嫌がらせ
「わりぃ、俺、全然知らなくて……」
彼の声のトーンが下がっている。
「いいの、隠してた私が悪いの」
あぁ、もう終わりだ────。
彼と、もう、こうして隣に座ることも、ない。まだ、泣きたくないのに────悔しさと悲しさで、涙が目に溜まっていく。
でも、と言って彼は正面にいる父に向き直った。
「俺は千鶴さんが好きなんで、俺はこの人じゃないとだめなんで、やっぱり結婚したいです、俺は」
私は、耳を疑った。信じられない気持ちで、彼の横顔を見つめてしまう。
「子供は……いいのか?」
彼ははい、と頷くと、こう言った。
「俺は、結婚を好きな人と一緒になるための手段だと思ってます。そこに、子供がいるとかいないとか、あんまり……関係ないです。
とりあえず、千鶴さんがいれば、俺はそれで本当、十分なんで」
「……そ、うか」
涙で、視界がぼやけていく。こんな、こんなことがあるのだろうか?
彼が、後先考えずその場しのぎにそんな言葉を口にしたのではないことは明らかだった。真っ直ぐに父を見ている彼の横顔は、本当に、清々しいものだった。
「今日は、突然失礼致しました。また改めてご挨拶に伺います」