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嫌がらせ
第1章 嫌がらせ
その後、寿司を食べながら色んな話をした。
お互いの仕事の話、最近はまっていること、世間で話題になっているニュースについて、また────母と兄のことも。
父とこんなに沢山実のある話をしたのは、恐らくこの時が初めてだっただろう。
「なぁ、覚えてるか?」
「?」
父が水入りのコップを一つ持ってきて、私の正面に置いた。
「昔、これでお前に嫌がらせしてやっただろ」
来店時よりも表情が和らいでいる父の目元は、とても愉快そうだ。
「……あ。」
「思い出したか」
それは、いつだったか。
いつものように家族四人で寿司屋に来ていたとき。
その日、出掛ける前、無計画にお菓子を頬張っていた私は、寿司が全然食べられなかった。
すぐにお腹がいっぱいになってしまった私は、途中から家族三人が食べているのを羨ましそうに眺めていた。
暇そうにしている私を見兼ねてか、父が水入りのコップを一つ、私の前に置いた。
『今からお前に嫌がらせをしてやる』
『えーっ、ヤダ。なんで嫌がらせ!?』
『まぁ、痛い思いはしないから安心しろ』
幼い私は口をへの字にした。何をされるか、とても嫌な予感がしたからだ。
『お前は今から絶対に動けなくなる』
『えっ!? どーゆうこと!?』
父は愉快そうに、にやにやと笑っている。
『まぁ、いいから。千鶴、両手の親指をそろえて、テーブルの上に置け』