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嫌がらせ
第1章 嫌がらせ
私の大切なものが、初めて失われたのは、今から10年以上も前、私がまだ、中学生のときだ。
その日、午後から母と兄が買い物に出かけていた。
土曜日だったため、家にいたのは父と部活が休みだった私。
夕方が過ぎ、夜になっても二人は帰ってこなかった。電話も繋がらず、どうしたもんかと父と私がそわそわし始めた時、警察から電話がかかってきたのだった。
「母さんと、明がいなくなって────俺はもう、あんな身が引き裂かれるような思いは二度としたくなかったんだ」
交通事故で、母と兄はこの世を去った。交差点を直進しようとしていた二人の車に、横から車が突っ込んできたのだ。運転手は無免許の17歳の少年。薬物中毒で事故当時、意識が朦朧としていたらしい。
私は狂ったように泣き叫んだ。わけもわからず喚き散らして、暴れた。そして父にこう言ったのだ。
お前のせいで、二人は死んだんだ────と。
事故の翌日は、父の誕生日だった。母と兄は、父の誕生日パーティーの買い出しのために外出したのだ。
今考えればその言い分は100%間違っている。二人の命が奪われたのは、稚拙で、未熟で、身の程知らずの馬鹿な少年のせいなのだ。
しかし当時まだ中学生だった私が、まだ大人になりきれていない私が、どうにかして、二人の死を受け止めるには、父のせいにするのが都合が良かった。
あの時の、私の心無い暴言に、父は何と言ったのだろう。よく、覚えていない。我慢強い父のことだから、言い返さず、ただ黙っていたのかもしれない。
未だにこの発言をしてしまった自分に対して、罪悪感が残っている。これから、残された二人で手と手を取り合って生きねばならないという時に。どんなに苦しかろうと辛かろうと、あれは言ってはならない言葉だった。