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嫌がらせ
第1章 嫌がらせ
そしてこの父の単身赴任がきっかけとなり、父と私の間に少しずつ距離ができ始めた。
最初こそまめに連絡をとっていた。父も一ヶ月に一度のペースで帰省した。
が、時が経つにつれ、三ヶ月、半年に一回と、父と会う機会は減ってしまった。私も高校受験が差し掛かって、父のことを考える余裕もなくなってしまった。
それでも父が帰省した日は、二人で実家で過ごした。私はいつも祖母の家に帰りたい、と思っていた。気まずい、何を話したらいいのか分からない。母と兄が生きていたら、という想像は数え切れないほどしたが、二人で実家にいるこの時間にはいつもそんなことを考えていたように思う。
結局、私は大学を卒業するまで、祖母の家で生活した。
長くても三年────つまり私が高校生のとき帰ってくると、当初話していた父だが
ついに、私が新社会人になる四月に戻ってくることになった。
ここでも二人の距離は縮まらなかった。私の職場は実家から通える距離だったが、ひとり暮らしを選んだ。もうさすがに祖母に世話になるのも申し訳ないし、しかしだからと言って、母と兄の思い出がつまった実家で暮らすのも、難しかった。父もそれを止めなかった。
思えば、私はいつも父から逃げていた。父が追いかけてくることはなかったが、少し距離を詰められるとその分私は離れていった。そんなことを繰り返してきた。
そのツケが、今まさに回ってきたのかもしれない。父の、長年溜め込んだ苦労が老化として現れているのも全く気付かなかったし、こうして、手術に対しても負い目を感じさせてしまっている。
「……」
どうしたらいいのか、私は途方に暮れた。仮に私が、何か前向きな言葉をかけても、きっと父には届かない。
父と向き合うのを避けてきたことに、今更後悔した。その深まった溝を、どう埋めていったらいいのか。
「お、とうさ──」
ヴー、ヴー、と鈍い音がした。テーブルの上に置いてあった私のスマートフォンが震えている。
「……ちょっと、電話出るね。ごめん」
私は、スマートフォンを手に取り、店外へ急いだ。