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嫌がらせ
第1章 嫌がらせ
「もしもし! 千鶴?」
電話の相手は彼氏だった。彼の陽気な声に私はほっとした。
「俺、今超ヒマでさー。ひとりでドライブしてるんだけど、なんか千鶴に急に会いたくなってさ。って、千鶴!? お前、泣いてね?」
張り詰めていた糸がぴんと切れてしまったように、私は嗚咽を洩らしていた。脳天気な彼の変わらぬ態度に、緊張していた心が解されていく。
「っ、ごめん。何でも、ないの」
「いやいやいや、ほっとけねーから。お前、今どこ?」
私は、何故か彼にべらべらと自分の現在地を話してしまった。場が煮詰まっていたときにかかってきた電話に、縋って、助けを求めたかったのかもしれない。
10分も経たずに、彼はすっとんできた。たまたま近くを走っていたらしい。彼が来るまでに泣き止んで落ち着きを取り戻しつつあった私は、今の状況を説明した。
「ごめん……実は今、お父さんがお店の中にいるの」
彼はえぇ!? と声を上げた。
「まじか……あ、じゃあちょうどいいから挨拶するわ」
その言葉に、今度は私が驚く番だった。
「え!?」
「駄目?」
「いや、まぁ……いい……けど」
「うし! なら行くぜ!」
彼はシャツの襟を綺麗に立て直すと、むんずと歩き出した。私は黙って後ろについていった。何だか、おかしなシチュエーションになってしまった。