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イかせ屋…2
第3章 その男、絶対的につき…
初音さんからは私みたいな女に昌さんは譲らないという意思を強く感じる。
私の嫌味に流石の初音さんも綺麗な顔を歪める。
昌さんとの結婚は簡単にイエスとは言えない。
だけど昌さんを奪い合う女の戦いには絶対に負ける訳にはいかないと私にだってわかってる。
髪結いが終わると男の人が出て行った。
初音さんが和紙に包まれた着物を出す。
濃い紅と言われる少し色の濃い渋い赤の着物。
「これを貴女に着せろと言われてる。貴女はこの着物の本来の持ち主をわかってるの?」
淡々と言葉を吐く初音さんが私を睨み続ける。
私が昌さんから着せて貰える着物の前の持ち主は1人だけ…。
「昌さんのお母様のお着物よ。」
私の答えに初音さんが大きく目を見開く。
お母様の着物ならサイズ直しの必要がなく、その着物を着ると昌さんだけでなく親分様も嬉しそうな顔をするから、夏の終わりにあった親分様のお誕生日にも昌さんは私にお母様の着物を着せてくれた。
その時の昌さんがこう言った。
「曽我の家には母が嫁いでからの着物しかないから若い梓には色が少し似合わないな。」
その言葉から推察するなら、ご実家があるこの京都には嫁ぐ前の着物があるという事。
実際、曽我家にあった着物は淡い藤色や若草色という落ち着いた年代の方用の着物ばかり。
この濃い紅はお母様が嫁ぐ前のお若い時の着物。
昌さんが今の私に似合うと考えた着物がこの呉服屋に全てあるのだと理解する。
初音さんは諦めたように私に着物を着せ始める。
「自分で着る事も出来ないくせに、この着物を着ようと思うなんて、ずうずうしいわね。」
そんな嫌味で仕返しを受ける。
次に京都に来るまでに昌さんから着物の着方を教わろうと決心をする。