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イかせ屋…2
第4章 その男、弱い生き物につき…
『はい?』
カメラ付きインターホンのスピーカーからは中年女性の声がする。
「杉田と言います。あの…、藤原さんはご在宅でしょうか?」
『少々、お待ち下さいませ。』
スピーカーの声が消えた瞬間、自分が手ぶらで来た事に気が付く。
しまった!
いつも昌さん任せな自分を呪いたくなる。
お母様のご実家で、しかも相手はイかせ屋の本家。
そんなところに来るのに御挨拶の手土産1つ持たずにやって来た礼儀知らずな女だと思われる。
京都の人ってそういうしきたりにうるさいとか聞いた事があるし、本音と建前がかなり違うとか噂もある。
どうしよう…。
オロオロと悩む間に木戸が開き、緑のエプロンをした中年女性が出て来る。
「どうぞ、お上がり下さいな。」
中年女性は普通の笑顔を私に向ける。
「お邪魔します…。」
惨めな気分でその木戸を潜る。
中年女性の後ろをついて行くと中年女性は玄関ではなくお庭の方へと歩き出す。
手土産も持たない失礼な客は玄関を通すなって意味ですか!?
勝手に妄想で自分を卑下してしまう。
凹む私の前には立派なお庭とその奥に真っ白な壁の古めかしい蔵が見えて来る。
蔵の前には清太郎さんが着物姿で爽やかな笑顔を私に向けている。
「いらっしゃい。」
春の日差しのように柔らかく暖かい笑顔…。
その笑顔にますます胸が痛くなる。
「お邪魔します…。」
泣きそうな自分を堪えて頭を下げる。
「どうしたの?元気がないけれど…。」
清太郎さんがとても心配をした顔をする。
手土産も持って来なかった非常識な女にそんな顔は不要です!
「いえ、別に…。」
作り笑顔で誤魔化そうとした。
だけど後ろめたくて俯いちゃう。
清太郎さんがゆっくりと私に近付く。