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イかせ屋…2
第1章 その男、過保護につき…
「昌は…、あれは何をしてるんだ?」
親分様が呆れたように言う。
「多分…、拗ねているのだと思います…。」
そう答えるしかない。
縁側の端をウロウロとして、こっちをチラ見する昌さんの姿が見える。
曽我家はお屋敷と呼ぶに相応しい大豪邸。
縁側と言っても半端なく長い廊下…。
その数メートル向こうでやはり着物を着た男が私に近寄りたくても近寄れずに、情けない顔でこちらの様子を伺ってる。
「何に拗ねとんだ?」
「お昼ご飯の時に、ちょっと叱りましたから…。」
「なるほど…。」
親分様が我が息子ながら情けないという顔をする。
昌さんとお付き合いをしてわかった事…。
女をその気にさせて頂点に導くというテクニックは完璧に持ち合わせてる。
でも…。
その先が全くわからない…、わかっていないという困ったちゃんな男だという事…。
要するに仕事としての女性との接触は完璧。
なので本命の恋人となると、どうしていいのかわからずに、今みたいに狼狽えるだけの人になってしまう。
だから曽我家の男は皆が口を揃えて言う。
「我が家で一番の馬鹿男は昌だ…。」
……と。
「で…、何を昌に叱ったのかね?」
親分様が私に気を使う。
「結婚をしたいと言われました。」
「ほう…。梓さんは嫌なのかな?」
「嫌じゃないんです…。でも、昌さんに捨てられたら私には何もない気がするのです。」
「何もない?」
「はい、本当はこのケーキも買って来るのではなくて自分で作りたいとか思うけれど、私には作り方がわからない。そうやって何も出来ない自分がまだ不安なのです。」
「なるほど…、ならば尚更、昌とはよく話し合うべきだと思う。」
親分様は優しい微笑みを見せるとケーキを食べ終えて縁側から立ち去った。