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ビスカスくんの下ネタ日記(くすくす姫後日談サイドストーリー)
第15章 約束は、守るものです
 同じ場面を三度繰り返して、踊りは終わる。男女の踊りなら二回は男側からの問い掛けで、三度目は女側からの答えだが、婚礼の時の踊りは少し意味が違う。
二回は親族側からの本当に嫁に行くのかって問い掛けで、三度目が嫁御側からの回答だ。
 小せぇ頃のご希望通り、俺は三度目の最後にお嬢様をくるくる回して差し上げた。今頃やっと、お別れするぎりぎりでお約束が果たせた事に、俺は心底ほっとした。もう、思い残す事ぁ無ぇよ。

 後は、離れりゃ踊りは終わりだ。
 普通の男女なら離れて終わるって事は結ばれねぇって事なんだが、親族として婚礼やなんかで踊る時に離れんのは、結婚相手に渡す為だ。離れた女が結婚相手に収まって踊り始めたら、親族側の踊りは終わりだ。

 くるくる回すために合わせていた掌が離れ、お嬢様が遠ざかろうとした時だった。
 お嬢様の腕輪がしゃらんと音を立てて滑ってずれて、手首の内側が目に入った。
 それを見た瞬間、俺は考えるより先に離れかけた指に指を滑らせて手の甲を掬い取り、指を絡めてお嬢様の手を握った。
 お嬢様は一瞬びくっとなさったが、俺の顔を見ると顔を歪ませた。小せぇ頃に見た様な、どうしたら良いか分からねぇ時の、途方に暮れた泣きそうな顔だ。
 ーーこんな顔のままのお嬢様を、どっかになんか遣れっこ無ぇだろうが。
 俺は握った手を軽く引き、腕の中にやって来たお嬢様を抱き止めた。
 強張った体の力が抜ける様に、背中を軽く、ゆっくり叩く。お嬢様が頭を預けてくれた肩の辺りがだんだん重たくなって来て、溢れた涙で濡れてくる。
 ……今まで、なんで気付かなかったんだ。鈍い自分に、腹が立たぁね。

「おい!これはどういう事だ?!」

 こんな事になるたぁ、思いも寄らなかったんだろう。お嬢様を待ってた御従兄弟様に、怒鳴られた。
 俺は怒鳴り声に驚かれたお嬢様が抱き付いて来られたのを抱き返しながら、お坊ちゃんの方を睨んだ。

「……これぁ、どういう事ですか?」

 俺はお嬢様の背中を抱いたまま手を持ち上げて手首を見せながら、聞かれたのと同じ事を、聞き返した。
 そこには、誰かに強く握られた、指の痕が付いていた。
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