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ビスカスくんの下ネタ日記(くすくす姫後日談サイドストーリー)
第8章 ビスカスくんの一番長い日
これがもし夢じゃなくて本当なら、お嬢様の人生四度目の「ごめんなさい」だ。
だが、こりゃあ夢のお嬢様だ。現実のお嬢様が、俺なんぞに謝ったりなさる訳が無え。
あー…俺の願望は、俺の想像を遥かに超える、ものすげー夢みてーな夢見せてんな…

眠気に抗って、目を開けた。
夢のお嬢様は、消えてなかった。涙目で、迷子になった時みてぇにゆらゆら瞳を惑わせながら、俺を見ている。
…最後に見るなら、こんな顔じゃなく笑ってみせて欲しいもんだが、そんな事言ったら、ぶっ飛ばされんだろーね…。

「…私…お前が居なくなったら…もう、一歩も、部屋から出ないんだからっ…だって…私の護衛は、お前だけなんだものっ…」
こんの、仕方の無ぇお嬢様め…さっき我が儘ぁ謝ったと思ったら、まーた我が儘ですかい。護衛は要らねーとか言っちゃあ、ご領主様が嘆かれますよ。

最後に、もう一度だけ、手を伸ばす。
ガキの頃から変わらねぇ、くるんとした艶やかな髪を撫で、そのまんま、涙で濡れちまったすべすべした頬っぺたにそうっと指で触れてみる。夢ん中のお嬢様は、今度は俺の手を払わずに、ガキの頃みてぇに幼い、くしゃっとした泣き顔んなった。
お嬢様は俺の手に頬擦りなさって、掌に花片みてぇな唇を押し当てた。そうして、ちゅっと何度か吸いなすった。

「…お願い……もう我が儘言ったりしないから、ずっと私と一緒に居てよ…お前が居なきゃ、私……つまんないっ…」
お嬢様…その顔もその台詞も、水晶の薔薇にゃあ、似合いませんぜ…。
それじゃあまるで、俺にとっちゃあ誰より大切で愛おしい、俺の小せぇお嬢様みてぇですよ…?

「ビスカス?……ビスカスっ!?」
何ですか、お嬢様。
返事してぇが、疲れちまって、目も口も開かねえ。
お嬢様が俺の名を呼ぶのが、どこか遠くで聞こえる。ぽたぽた降り注いで来る生温い滴が頬っぺたを濡らして、唇まで届いた。
お嬢様の涙が、末期の水かよ…どこまでも良く出来た夢だぁね…
だが、夢はやっぱり夢だな。
涙が、しょっぱく感じねえ。
すげー甘いわ…有り得無えwww
こりゃあ、絶対、夢だって事だね…夢でも良っか。最っ高の夢だった。
お嬢様。
こんな俺を今までお傍で仕えさせて下すって、有り難う御座いやす。
最後に、本当にいい夢見せて貰いやした…


俺の長くも短かくも無かった人生の中で一番長かった一日は、幸せの絶頂で、幕を閉じた。   
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