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ビスカスくんの下ネタ日記(くすくす姫後日談サイドストーリー)
第11章 嗜みは必要です
●月●日

 俺は、静かに扉を開けた。
 ……帰って来た。およそ一週間振りの自室だ。
 室内を眺めて微笑むと、俺は静々と扉を閉めた。
 そして、








「っだあああああ、クッソ鬱陶しぃぃいいっ!!!!!!!」

 ……叫びながら服を肌蹴て、息を切らしながら脱ぎ捨てた。

 ちゃんとした格好に、ちゃんとした言葉遣い。
 ちゃんとした御従兄弟様にちゃんとした見合いにちゃんとしたお茶にちゃんとしたご挨拶、そして、ちゃんとしたお嬢様。
 俺が許せる「ちゃんとした」は、最後のだけだよ!!!!
 疲れ果てた俺は一週間振りの寝台に、そのまんまの格好で仰向けに転がった。


     *     *     *


「ご苦労だったな、ビスカス。お前のお陰で、家のゴタゴタにスグリ姫様を大きく巻き込まずに済んだ」

 サクナ様の屋敷から帰ってすぐ、俺はお嬢様にご挨拶も出来ねぇうちに、旦那様である領主様の部屋に連れて行かれた。そして旦那様から、怪我と引き換えの功績について、大いに労われた。
 お嬢様にご挨拶が出来なかったなぁ、他でもねえ。今日から始まるお嬢様の見合い相手様と、到着がかち合っちまったからだ。

 久し振りに見るお嬢様は、オレンジ色のドレスをお召しになっていた。
 オレンジは、お嬢様のお好きな色の一つだ。お小さい頃からお好きだし、とても良くお似合いになる。お嬢様は何をお召しになってても見たら即平伏したくなる程お美しいが、オレンジの服ぁ特別だ。お嬢様ぁ太陽みてーなもんだからね。お嬢様が居なけりゃこの世は闇って位のお人だから、太陽の色があれだけお似合いなんだろう。
 ご自身は気が付いてらっしゃらねーかもしれねぇが、大事な時にオレンジをお召しになってる事が多い。例えばこの前のサクナ様とスグリ様の婚約披露とか、踊りの大会で優勝が決まる時とか、大勢の前で挨拶しなきゃいけねぇ時とか、そういう時だ。
 お嬢様は生まれながらにお美しくて賢い方だから、ご自分を一番引き立たせる色を、自然にご存知なんだねー。そのオレンジを今日着てたって事ぁ、御従兄弟様を出迎える為だな。俺なんざ目に入らねぇ位、嬉しそうに出迎えてらしたもんねー。

「……タンムから聞いただろうが、今日からしばらく客人が逗留する」

 俺が目ん玉に焼き付けたオレンジのお嬢様を思い出してたら、旦那様の話が御従兄弟様に移った。
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