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ビスカスくんの下ネタ日記(くすくす姫後日談サイドストーリー)
第12章 猿と刃物は使い様です
「従兄弟なあ……俺ぁ会って無ぇから何とも言えねぇが、なんとなく今一つ気に入らねぇんだが……お前さえ折れてローゼルに負けときゃ、それで良かった話なんじゃ無ぇのか?」
「折れようがどうしようが、結婚は無理でさあ。俺の中ではお嬢様は、聖域なんです。荒らしたりなんかしちゃ、なんねーんです。んな事になったら、亡くなったお嬢様のお母様にも、顔向けできやせん。俺じゃ絶対無理です」
「お前……」

 サクナ様は、眉を顰めた。

「お前、案外、臆病者なんだな」
「そうですよ、臆病者ですよ。だって怖ぇじゃねーですか。お嬢様を御守りしなきゃいけねぇ立場なのに、俺なんかがお嬢様と結婚しちまったりしたら、それだけでお嬢様の今までの評判は滅茶苦茶です。婚約したって知れたけでも、口さがねぇ噂雀の格好の餌食ですよ。そんな事になっちゃあ、取り返しなんざ、付きやせん」

 切り損なったオレンジならまた切りゃ良いが、お嬢様は、唯一無二なんですよ?下手クソよりちょいとマシになった奴が切るよりも、一流の奴が切るのが道理でしょうが。

「そりゃ……自分を低く見積もり過ぎじゃねぇのか」
「全然でさぁ。お嬢様ですよ?お嬢様と比べた俺なんざ、天上と地べた、女神とゲジゲジでしょうよ」
「……ゲジゲジって……」

 サクナ様は今度は呆れ顔になった。ゲジゲジに、何かご不満ですか。果物の害虫じゃ有りやせんぜ、ゲジゲジは。

「……ローゼルがお前以外の誰かに抱かれて、好きな様にされちまっても良いのかよ。お前の言ってるなぁ、そういう事だぞ」
「勿論でさぁ。そのどなたかが、お嬢様を大事にして幸せにして下さる、俺なんかより遥かに優れたお人なら、文句なんざ有りゃしねぇです。早く御子様が見てーです」

 そん時ゃあ、孫を待つ爺の境地になれそうですよ。綺麗な御子様が産まれんだろーね。楽しみだ。

「……重症だな……」
「そうですか?俺ぁ最初っから、こんなんですけど」

 お嬢様がこの世にお産まれなすって俺が初めて会った時から、俺の全てはお嬢様に捧げるって、決めてんですから。今の俺が重症だって言うんなら、罹ってんなぁ、一生治らねー病です。
 お嬢様に相応しいお相手と幸せになって下さりゃあ、俺ぁそれ以上望む事ぁ無ぇよ。

 その日は家に帰った後でも、ずっとオレンジの匂いがしてた。オレンジ色の夢も見た。何を見たかは、


……憶えて無え。
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