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感情のない世界 // 更新される景色
第3章 君
「カルテを見る限り、637Sはずいぶん前の型ですよね。つまり今回の不調の原因は肉体的なものではなく──こちら側、です」
医師は人差し指を自身のこめかみに向け、トントンと二回ほど当てる。
それに対して僕は顔色を変えず落ち着いて聞いていた。
だいたいの予想は付いていた。
今の僕はあらゆる動作が人よりも鈍く、喋る速さも遅いので自然な会話ができない。
心配した君が何度 " デリート " を行っても改善しなかったのは、より根本的な所に問題アリという証拠である。
「そんな……古いだなんて」
「新しい物に乗り換えを勧めます」
「……っ」
隣の君だけが動揺していた。