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胸懐の本棚
第1章 胸懐の本棚
意識が遠のく、その刹那。
突然、ブッ! という音とともに首が軽くなり、衝撃を感じたかと思うと腰から足先まで激痛が走った。
ロープが切れ、運悪く、さきほど蹴った踏み台の上に背中から落ちていた。
したたかに腰を打ち、それが死ぬほど痛い。
畳の上でしばらく闇雲にのた打ち回ったあげく、思わず哲夫の口をついて出たのが、
「死ぬかと思た……」だった。
腰の痛みがピークを過ぎて弱まってくると、哲夫は矛盾した己の言動がおかしくなった。
こみあげてくる笑いをこらえたが、笑いが次の笑いを引き起こし、笑うことが止まらなくなって、それが息苦しくてまた死にそうになった。
ごんごん咳をしながら首のロープをほどき、どうにか息を整えて大の字になると、ちぎれたロープの先が獲物を逃した毒蛇のようにゆらゆらと揺れていた。
破れた天井と重なって映し出された美里の笑顔が、涙でゆがんだ。
歓びとも哀しみともつかぬ、正体不明の涙だった―――。
『社長! ケータイ鳴ってますよ!』
突然の声に椅子から腰が浮くほど飛びあがったあと、追想から醒めた哲夫は、蘇生した小動物のように目をぱちくりさせた。
マナーモードにしていた携帯電話がデスクの上で震えている。
ずいぶん長く鳴っていたのか、真紀が心配そうな面持ちで哲夫を見ていた。