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胸懐の本棚
第1章 胸懐の本棚
『あのな、高田さん。
京子から……姉から聞いたんや。
姉に僕との再婚、せがまれてたんやね』
真紀は、驚きを交えた戸惑いの表情で、
『はい……』
と答えた。
『昨日、聞いたんや。
アイツは知っての通りの世話焼きでなァ。
高田さんにはエラい迷惑かけてしもた』
いえいえ、と小さく首を振った真紀は、膝の上に置いた菓子箱へ視線を落とした。
『無神経な姉やで……。
ほんま、ごめん』
そこまで言うと、あとが続かなくなった。
(ほんで、どない話そか……)と、そればかりが頭の中をめぐる。
うーん、と口を結んだまま腕組みして考えるうち、哲夫は、困惑している自分を怪しんだ。
大いなる勘違いを犯しているような気がしてきたのである。
真紀の気持ちが実際のところどうなのか直接聞いてもいないし、真紀からすれば、離婚後に職を斡旋してくれた姉は恩人だから、すげなく返事をすることもできず、職を失いたくないために、適当に話をあわせてその場をやりすごしただけとも考えられる。
前にここへ送ったときに感じたことも、自分勝手に真紀の身上を思いやっただけで、すべて想像の域を出るものではない。
それに、結婚など二度とご免だという離婚経験者の話はありふれて耳にする。
その伝でいうなら、真紀も同様に再婚するつもりなどさらさらなく、独り身を楽しんでいるかもしれないし、あるいは、すでに親密なる恋人がいて、今もその腕の中から這い出してきたのかもしれない。
にもかかわらず、こちらから言い訳がましい謝罪をするというのは、いかがなものか。
これは思い上がりも甚だしい、完全な自惚れではないか!