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胸懐の本棚
第1章 胸懐の本棚
向かい合ってロールケーキをついばみながら、取引先へ送る図面のことや現場写真の整理といった仕事がらみの話をし終えてしまうと、語り種はやはり姉のことになる。
二人に共通の話題は、仕事か姉のことぐらいしかなかった。
『アイツは子供のときから口が達者でな、
口げんかで負けたためしがない。
ミシンの針みたいに舌が動くんや。
エクソシストか! 言いたなる。
十三日の金曜日生まれやしな、
たぶんその辺が影響しとるんやろな』
真紀はこらえかねたように笑う。
『でも私は京子さんには、いつも感謝してるんです。
離婚したときもそうでした。
いちばんに駆けつけて話を聞いてくれはったんです。
一緒に働いてたときから面倒見がエエのん知ってて、
私もそれに甘えてしまいました』
『おせっかいなんや。昔から。
頼みもせんのに、あれやこれやとしてしまいよる。
おまけに思い込みが激しいもんやから、
今回のことも結局それがアダになってしもた』
『アダやなんて。
私はそない思てません』
真紀は両の掌にマグカップを包んで、哲夫の手元あたりをぼんやり見つめた。
目にはおだやかな笑みをたたえている。
しばらく沈黙したあと、観念したように口を開いた。