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胸懐の本棚
第1章 胸懐の本棚
本性を取り繕わず、激しく肌を重ねあわせるうち、真紀が蜃気楼の類などではなく、等身大の女であるというまったく当然の事実が、哲夫には途方もなく素晴らしいことのように思えた。
そしてその感動は同時に、歪みのない純粋な愛情を彼の心に生じさせ、彼自身を驚かせた。
まだ美里が元気だった頃の、病気で若死にするなどこれっぽっちも考えていなかった当時の感慨が、真紀の肉体によって掘り起こされ、それが一瞬にして、今自分の腕の中で生きている真紀への、身悶えするほどの愛しさへと変転したのだった。
哲夫の瞼に、熱くこみ上げてくるものがあった。
目の前に底を開いて見せるこの愛しいものが、どんなふうに齢をとり、どう命を終えるのか。
シアワセにしたい、ではなく、シアワセになっていく女を次こそは必ず見届けねばならぬという決意が、曖昧なものが一切排除された意識の奥底から、哲夫の全身に漲(みなぎ)ったのである。
そのとたん、髪の根が締めあがるような多幸感が哲夫に到来した。
間をあけず訪れた痛烈な快感を一瞬のうちに感受して、哲夫は激しい胴震いとともに真紀の上に果てた。