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胸懐の本棚
第1章 胸懐の本棚
 

ここ十年で感じえなかった安堵にひたされると、さっきは言えなかった心の内が、哲夫の口からするすると出てきた。

『僕なァ、さっき解ったんや。
 忘れられへんのは嫁はんやのうて、
 あのときの僕自身やったんや。
 会社辞めて、その勢いで事務所開いて、
 さぁこれからいうときに嫁が死んで、
 あげく首くくって、それもできんと漂うように生きとる。

 ときどき、生きてるのか死んでるのか、
 自分でもようわからんときがあってなぁ。
 そういうとき、ぼーっと考えてしまうねん。
 あいつは僕と出会わんかったら、もっと長生きしたんちゃうやろか、
 僕やない人に嫁いでたら病気にならんかったんとちゃうのかなぁ、て。
 苦労かけたからなぁ……。

 そない思たら、あの頃の自分が憎らしいてな。
 自分だけやない、まわりのもん全部恨んでたわ。
 うまいこと言えんけど……、
 いつまでも執念深(ぶこ)う思い出すんは、
 自分への復讐みたいなもんやったんかな。
 そやけど、そのおかげで今まで生きてこれたんかもしれん。
 今、それがようわかったわ……』



 
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