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きっかけは映画館
第15章 これはデートですか?
こうなることをわかってたみたいにヒジオが笑うから、振り向いて睨んだ。
「麻里絵ちゃん、ちょっと待って…」
ヒジオが慌ててメットを外してくれる。
「麻里絵ちゃん、紅茶派?珈琲派?」
トイレから出るとホットドリンクの所でヒジオに呼ばれる。
「紅茶、紅茶、どきどき珈琲派。」
「じゃあ、今は紅茶かな?」
レモン、ミルク、ストレートを交互に指差すので、ヒジオの手を掴んでミルクを指差した。
バイクに横座りに乗せられミルクティーを飲む。
バイクだと、こうやって止まらないと飲めないんだと学ぶ。
「手、寒くない?」
「ちょっと…」
ヒジオが袖を伸ばして指先まで隠してくれる。
「前は?」
「ヒジオにくっついてるから、寒くない。」
ヒジオがボンッと音がするくらいの勢いで赤くなる。
「ヒジオ?あの、元カノさんとか、乗せたことないの?」
「………ない。実家帰るのに買ったけど、帰ったら乗らないし…メットはね。自分ののお古。」
「変なこと聞いちゃってごめんね。」
「いや、大丈夫。
あのさ、さっきみたいに、足痺れたりするし、走ってると声聞こえないから、休憩の合図はトントンね。」
ヒジオが自分の胸をトントンと叩く。
「うん、わかった。
でもバイクって気持ちいいね。一体になって風になって……」
どこがツボなのか、またヒジオが赤くなる。
「それとね、カーブでバイク傾けたりするんだけど、その時は麻里絵ちゃんは普通にしてればいいから、合わせて倒れたり、逆に傾いたりしないでね。重心狂ってコケちゃうから。」
「わかった。」
一度降ろされて、ヒジオの後ろに跨がって、いつスタートを切ってもいいように、ヒジオにぴったりしがみつく。
ビクンとヒジオが震えたけど、私が組んだ手をポンポンと優しく叩いて出発した。
ブィイイイン…
車と違って景色が飛んでいく。
それをずっと見ていると疲れちゃうから、ヒジオの背中におでこをくっつけて、と繰り返す。
最初はヒジオの体温が伝わって来るのが恥ずかしかったけど、それが当たり前になってきて、ギュッとしがみつく。
エンジンの振動がヒジオの鼓動のように思えて、やっぱりヒジオのこと嫌いじゃない、と確信したのだ。