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きっかけは映画館
第16章 ハロウィン
「ヒジ…カタさん、お久しぶりですね。」
「麻里絵ちゃん、今は二人きりなんだし、いつも通りでいいよ。」
「だって色々が突然すぎてついていけないわよ。」
「でもお久しぶりってことは、もっと頻繁に会いたいって思ってくれてるんだよね?」
「はぁ?優希ちゃんと今日飲む話が決まったら、連絡寄越せば良かったでしょ?」
「だって麻里絵ちゃん、しつこいの嫌いでしょう?それに、月、火は帰りが終電間際だから、遅くに連絡するの悪いと思ってたんだけど…」
「別に遅くてもいいから、こんな大事なことは連絡寄越しなさいよ。こっちも準備があるんだから…」
「ブレスレットをわざわざ着けてくれるとか?」
ヒジオの視線が私の手首をさまようので隠すようにして擦った。
「別に…気に入らなかったわけじゃないのよ。仕事にしてて汚したり、壊してしまうのが嫌で…」
「本当にそれが理由なら、むしろ毎日身に付けて欲しいな。壊れたらまたプレゼントするから、せっかくだから着けていて欲しい。」
ヒジオの視線が急に艶めいて、寂しそうに手首を見つめてくる。
薔薇園で手首を掴まれ、腰をホールドされた感触が甦る。
そして、楽しかった1日を思い出した私は、急に顔が熱くなったと自覚して、ヒジオから視線を反らせた。
「麻里絵ちゃん、目を反らさないで、もっと俺を見て…」
切なそうに言うヒジオの顔が見れなかった。
「今日は一緒に帰ろ?」
大型犬に化けたヒジオに甘えるように言われて…
「う…ん…」
素直に答えるしかなかった。
ああ、私、ヒジオに会いたかったんだ。
それを優希ちゃんに抜け駆けされた格好になって、面白くなかったんだ。
そうと分かれば、先程までのモヤモヤがストンと落ち着く。
「ヒジオ…」
「ん?」
「話したい時は、遅くても連絡して…」
そして、素直に言うことができた。
コンコン…
ヒジオが私の肩を抱こうとした時に、
「彼、連れて来ました〜。」
ノックがあり優希ちゃんが戻ってきたようだ。
「はい、どうぞ〜」
傾きかけたヒジオは離れて、取引先相手の距離感に戻った。
ガラッと扉が開き、背の高い優希ちゃんと並ぶような身長の男性。
優希ちゃんの彼だ。
って、彼がお礼を言いたいってほど、優希ちゃんは会社や仕事や私の話を彼にしているんだと気付く。