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きっかけは映画館
第16章 ハロウィン
「土方さんは何で二回も見たんですか?」
シーンとしてしまったところで、晃くんがヒジオに話を振る。
さて、どう誤魔化すのか見ものだ。
「最初は、あの女優のセミヌードが見れるとか、濃厚なラブシーンがあるとか、邪な気持ちで見に行って…」
違うでしょ?出会い系の出会い現場ってだけだったくせに…
とヒジオを見ると、視線は晃くんに向けているのに、テーブルの下で、まあまあ…と私を宥めるように手を振っている。
「それでストーリーがさっぱり入ってこなくて、もう一度リベンジしたんですよ。」
邪な気持ち…は合ってるよね。痴漢のタイミングの為に寝たフリして見ちゃいなかったんだから…
「それでね。キャッチコピーのまんま、『恋愛っていいな』って、一人の女性を好きになって、愛して…
一緒に居たい、離れたくない、イコール結婚なんだなぁって、思いましたよ。」
ヒジオは、あの主役を私と自分に置き換えて見ていたのに、元カノ、元彼の存在とか、気にならなかったんだ。
私は、裕司と自分に置き換えて、何故結婚に至らなかったのかを考えていた。
好き、恋愛、愛情、sex、結婚が全て独立していた私たち…日常生活に追われ、気が付けば、週末婚のような生活をしていたのに、互いが見えなくなっていた。
それぞれが自分の生活を基盤にして、相手に協力を求めたり、邪魔に思ったり…
相手を思う気持ちが薄れてきていた。
それが、裕司の転勤で、明らかになっただけ、
別々の生活を、自分の生活を捨てることが出来ない、一緒になることが出来ないのだと…
それがわかって私は泣いていたのだと…