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きっかけは映画館
第18章 同伴出勤?
キッチンカウンターに座るヒジオは、もう商社マンの顔だ。
ブラック珈琲の香りが鼻を掠める。
私にはミルクとお砂糖たっぷり…
こういう然り気無い気遣いが出来る男だ。
目敏くブレスレットを見つけて嬉しそうなヒジオを見ると私も嬉しくなった。
「さあ、行くよ。」
手を差し伸べられたら、そこに重ねるしかなくて…
ヒジオは軽く握りながら、ブレスレットを弄る。
ああ、所有欲の確認なんだなって思うと、ジュンとする。
男と女なんて…そんなものだ。
最初は、興味から始まり、知れば欲しくなる…そして独占したくなる…
その欲が…気持ちが…ずっと続けば…結婚になるのだろうか…
とにかく、ヒジオは嬉しそうにブレスレットをチャラチャラと弄っている。
そのヒジオを見ると私も嬉しく感じる。
ゆっくりで…少しずつで…いいんだ。
「麻里絵ちゃん、こっちの駅の方がいいよね。」
会社の最寄り駅より、自宅付近の方がいいのか確認される。
「うん…ヒジオって…もしかして、全部外食?」
「そう、作れないからね。」
「体に悪そう…」
「ならば…麻里絵ちゃん、作ってくれる?」
「え…」
「嘘だよ…いいよ。」
そんな風に言われると、作ってあげたくなっちゃう。
………でも、最近自分も惣菜部のお世話になりっぱなしだと反省した。
「週末とか…時間がある時ならね。」
「ほんと?本当に?
じゃあ、今週末は暇?」
「うん…」
「じゃあ、金曜日泊まっていってよ。買い物から一緒に行こう?」
っああ、大型犬ヒジオに、まんまと乗せられた……。