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きっかけは映画館
第21章 気がつけば…
俺達の部署は、統括であり他所の部署のサポート役だから、協力した部署で商談が成立すると合同で祝杯を挙げる慣習になっている。
関わった担当者は勿論、都合のいい人間は極力参加する。
麻里絵ちゃんと知り合う前は、全件フル出場だったので、いきなり断り辛い感じだった。
用があるから乾杯だけと、本当に乾杯だけで場を抜ける。
麻里絵ちゃんの待つ店に向かうと、主宰部署の女性が同じく無理矢理抜けて出てきた。
呼び止められて、『駅まで一緒に…』なんて言われたから、別用があるんだと思ったから、『待ち合わせしてるから途中まで』と話したら、
いきなり夜のお誘いにきた。
『今晩いかがですか?』
って、昔はそれに乗ってたけど…
もう、俺がそんなことはしないって、定着してると思ったのに、
お断りしても、『ものは試し』とか、どストレートな表現に、きっちり断ろうとしても、腕を掴んでくる。
『本気の人がいる』と言っても、『待たせてる』と言っても、動じず、辟易していた。
麻里絵ちゃんの待つ店はすぐそこ…
こんな所を見られて変な誤解をされたくない。
マジギレしそうな所を何とか堪えてお断りしていたら…
麻里絵ちゃんと鉢合わせ…
麻里絵ちゃんは案の定誤解して、帰ると言って歩き出す。
チクショウ邪魔すんな。
女に怒鳴りたい気分だったけど、麻里絵ちゃんを今逃したら、終わりだ。
麻里絵ちゃんを捕まえて、女を追い払おうとしたら、まさかの開き直り。
俺も、麻里絵ちゃんに言うべき言葉を、女に説明してしまったけど…
麻里絵ちゃんがいる前で、さらに開き直る女に…
ところが、麻里絵ちゃんが、
『好きだったらいいのか?』的な意味不明なことを言い、
驚く俺を通り越して…
女に…『今から付き合ってます。』とか言ったんだ。
俺に…俺に言ってくれよ〜
って、麻里絵ちゃんを呼んでも止まることもなく、腕を掴まれずんずん進む。
女がどうなったかなんて知らないけど、電車に乗るまでノンストップの蒸気機関車のような麻里絵ちゃんの頭から…蒸気が出ているのが見えた。