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きっかけは映画館
第27章 おうちで映画


「麻里絵ちゃん、別に服だけでなく、ないと困るものとかも荷造りしてね。」

「うん。」



しばらく待つとトートバッグ2つ分の荷物がまとまる。

「なんか、バタバタと荷造りして、夜逃げみたいね。」

麻里絵ちゃんは笑う。

だけど…本当に夜逃げなんだと思った。

きっと麻里絵ちゃんには、ここでの裕司との思い出もある。

ここでの裕司との記憶から麻里絵ちゃんを連れ出して夜逃げするんだ。
そんな風に考えていた。

俺の家には、引きずりたくない俺の過去の記憶はない。麻里絵ちゃんを責め立てる記憶もない。

やっぱり、早く麻里絵ちゃんを連れ出そう。



俺が荷物を持って、二人で玄関までいく。
麻里絵ちゃんのあのカレンダーともお別れだ。

きっとカレンダーじゃなく、麻里絵ちゃんの記憶にもあの予定たちは刻まれているだろうけど、ここを出れば、とりあえず目にすることはない。

そんな卑屈な思いに駆られていたとき、

「ヒジオ、ちょっと待って…忘れ物した。」

と、麻里絵ちゃんが室内に戻る。

まさか、あのカレンダーじゃないよね?なんて小心者になっていた。

「ガス栓を締めた方がいいよね?」

「ああ、そうだね。」

「それと…」

「まだあるの?」

「うん、スニーカーを履いて、パンプスも二足くらい持ってく。」

「ああ、」

麻里絵ちゃんは長ティー、ダボダボパンツに素足にパンプスだった。

「靴下も履いてくる〜。」

何だか本当に夜逃げのようにバタバタして…麻里絵ちゃん家を後にしたんだ。




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