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きっかけは映画館
第33章 ヒジオ来訪
ミーティングルームで一通りの挨拶が終わった頃に、優希ちゃんがお茶を持って入ってくる。
部長は、若者の感覚でオータムフェアを開催させたいと、私達を人選したこと、それによって手を煩わせていたらと頭を下げてくださった。
優希ちゃんが入ってくると、『それでもこの二人に任せたい。』と説明して、交代で部屋を出ていった。
「土方さん本日はわざわざありがとうございます。」
優希ちゃんが挨拶する。
「優希ちゃん、今日は二人にここだけの話をしに来たんだから固くなる必要ないよ。」
とヒジオに言われてホッと息を吐いて席についた。
「土方さんが飛んでくるってことは、難しいってことですか?」
優希ちゃんはヒジオに促されて急に言葉遣いが砕けてきた。
「いや、ね、初日の商談時から優希ちゃんはイートインって言っていたんだよ。
だから、その日に立花女史には話を入れてある。特段無理だとか言わなかったので、不可能ではないんだと思うよ。」
ここまでは昨日聞いた話だった。
「じゃあ、何で急に?」
「麻里絵ちゃん、昨日の話を入れたら、逆に立花女史が乗り気になってきたんだよ。
多分、おままごとでなく本気で具体的に考えていると伝わったからじゃないかな。」
「いいえ、考えていたのは優希ちゃんだから…
それで今日の打ち合わせの意義は…」
「うん、立花女史は、俺に、『現場を見てきなさい、そして三者に意味のある取引になる案があるのか確認しなさい。』って、それだけしか言わなかった。
手の内は教えてくれなかったんだ。
多分、どの程度本気で考えてるのか、明日試そうと思っているんだろうね。」
「ん〜、土方さん、三者ってうちとスイーツ部門と鞄部門ですか?」
「優希ちゃん、たぶん違うわ。うちと△△商事とヨーロッパの取引先よ。」
「うん、そうなるだろうね。で、店内を見てきたわけだが、地下にイートインが常設されているし、偶数フロアに1店舗飲食店があるけど、奇数フロアにはないよね。ただ奇数フロアはその分のスペースが有効活用されていないように思う。」