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きっかけは映画館
第39章 おフランス
あっ…
思わず声になりそうだった。
「藤堂…」
ヒジオが顔を背けるのとほぼ同時に、立花女史が藤堂女史を呼び捨てし、彼女の肩を掴んで、ヒジオから引き剥がした。
「あれ〜、土方ちゃんが身持ち固くなったとか、大事な女性(ひと)が出来たらしいって噂、本当だったんだ。」
ケロリと言いのける藤堂女史。
「藤堂、ここは日本よ。いくら海外滞在が長いからと言ってTPOもわきまえられないようじゃ、管理者失格よ。
土方君とこちらのお二人に謝りなさい。」
「調子に乗って…すみませんでした。」
藤堂女史は舌をペロッと見せて顔を上げる。
一瞬ピリッとした空気になったが、立花女史がまた切り出した。
「すみません、鞄部門の話が終わったようであれば、スイーツの話を煮詰めてもいいかしら?」
「じゃ、じゃあ私はこの辺で…失礼します。」
藤堂女史はここぞとばかりに退席していった。
明るい嵐のような女性だ。
そんな印象だった。
その後は立花女史から現在候補にあがっている店や商品の写真が提示され、
こちらはヒジオに手直しを受けた契約案を提示して、最終意向の確認が行われた。
「明日から私も現地入りして、契約締結に向けて動いていきます。
相手方からの意見は都度土方君経由で間宮さんに連絡するようになりますから、半日程度で譲歩案、代替案を返答いただきたいのです。」