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きっかけは映画館
第8章 食事
「おいし〜い、鮃がコリコリしてる〜」
麻里絵ちゃんは何か吹っ切れたように料理を堪能しワインを飲んでいく。
俺も気を取り直し料理に箸を運ぶ。
「うん、旨い。ここ魚屋の直営店なんだって、鮮度抜群だね。」
「へぇ〜、ワインも豊富だし美味しいわね。」
生ハムやチーズも食べながら、次の料理を注文した。
「あの…麻里絵ちゃんはどうして一人であの映画見に行ったの?」
「えっ…」
麻里絵ちゃんの頬はほんのり紅くなっていて、少しお酒が回っているようだったから、聞きづらいことを聞いてみた。
「…彼氏と見に行く予定だったから…
別れちゃったんだけど、見に行くって決めてたから、
一人でも、どうしても見に行きたくて…」
麻里絵ちゃんは、料理やお酒を口に運びつつ、間をあけて答えてくれた。
「ごめん…」
「は、何でヒジオが謝るの?関係ないじゃん。」
「いや、変なこと聞いちゃって…」
「それを言うなら、そんな映画を台無しにして、でしょ?」
「ああ、それもごめん。」
「おかげで内容さっぱりわからなかったし…」
「すみません。」
「まあ、いいわ。おかげでこんな美味しい料理とワインに巡り合えたから…」
まあ、一人で見に来てる時点でフリーなんだろうとは思っていたけど、別れたばっかだったとは…
「魚の涙、合盛りです。」
いい頃合いに料理が運ばれてくる。
魚の涙は炙り焼き、鰹とはらすと鰤の炙りだった。
「ワインはどちらも辛口、渋めになります。」
麻里絵ちゃんは綺麗に盛り付けられた炙りに目を見張らせて嬉しそうだ。
うん、話題を変えよう。
「麻里絵ちゃんて会社、この辺なの?」
「ええ、まぁ、そんなことはどうでもよくて、ヒジオ、このはらすトロトロだよ?」
普通に話しかけてくる麻里絵ちゃんは何だか付き合ってるみたいだ。
「あの、麻里絵ちゃんはいくつ?」
「はぁ?女性に年齢訊くなんて失礼ね。自分が先に言いなさいよ。」
「28です。」
「同じ、」
「は?」
「ヒジオと同じよ。」
「ほんとに?」
「嘘ついたってしょうがないでしょ。」
「へぇ〜同い年なんだ。」