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きっかけは映画館
第39章 おフランス


「ただいま。」

玄関を入ってすぐの明かりをつけて、誰も居ない部屋に挨拶する。

急いで支度をして出掛けたはずなのに、部屋は綺麗なままで、ヒジオが一旦帰ってきた気配すら残っていなかった。

「はぁ…」

何とはなしにため息が出てしまう。
気分転換にベランダに出てみる。

普段は室内から手を伸ばすだけで洗濯物を干すことができるから、あまり出たことはなかったけれど、
ベランダはかなり広く椅子やテーブルを置いてもいいくらいだ。

ふと、足元にあった紫陽花の鉢が目についた。

「お水あげなきゃ…」

また、声に出して言ってみた。

毎朝欠かさずヒジオが水をあげてくれている。
私が朝食の支度をする間に水やりをしているのだ。


「ヒジオ…ううん、ヒサオが私の為にくれた紫陽花、枯らしちゃいけないわ。」

紫陽花に話しかけるようにして水をあげた。


でも、その後の時間も一人でいるとどうしようもなくもて余してしまい、早くにお風呂に入った。

洗濯機にヒジオが日中着ていたシャツを見つける。
私が洗うことを予定してくれているのが嬉しい。

中から出してそっと抱き締めるとヒジオの匂いがした。

ん〜、これじゃ変態じゃない…と自分に言い聞かせて洗濯機のスイッチを入れた。

「おやすみなさい。」

ヒジオの枕に声を掛けて、さっさと眠ることにした。



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