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きっかけは映画館
第40章 日の出
「そうね、そんな選択肢があっても良かったのかもしれない。私にも…
どちらにも100%を掛けるということは不可能と考えていたのよ。
それぞれに100%を掛ければいいことだったのにね。」
「はい?」
「職業人としての自分とプライベートの自分は、元々公私混同してなければ重ならないもの。プライベートの中で結婚を充実させればいいだけのことと…
当時の私には考えられなかった。
それだけのこと…
さっき、土方君があなたのところばかり優先すると言ったけどね。
優先するだけで他をおざなりにしたり遅れをとっている訳ではないのよ。」
「は、はい。」
「ただ、あなたのところの仕事をする時の表情や、あなたと直接連絡する時なんて、顕著に気持ちが駄々漏れでね。
ちょっとからかってみたかっただけ。」
「は、はぁ…」
「協賛の件は快く承諾するわ。まぁ最初から問題視してなかったけどね。」
「あ、ありがとうございます。」
「くふっ…これでしばらく土方君を弄って遊べるわね。まあ、あてられるだけになりそうだけど。」
そう微笑む立花女史の柔らかい笑みに、
彼女は過去に仕事か恋愛かを選択し、仕事にかけてきたのだろう。それを乗り越えて尚、他人の幸せを享受する幅のある女性であることに感心した。