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きっかけは映画館
第40章 日の出
ギュイイン…というエンジン音と共にグィンと後ろに引っ張られるような、置いていかれるような感覚に、慌てて腕に力を入れ、体をピッタリくっつけた。
久しぶりで忘れていた感覚…
そして、まだ気を許していなかったのに感じたバイクを含めた一体感を思い出した。
そして、付き合い始めて、体を繋げて、想いも繋がったからこそ、触れ合っている安心感。
そして初回には遠慮していたけど、足でグッとヒサオのお尻を挟むようにして全身で掴まった。
ヒサオの好きなバイクに一緒に乗って、全てが溶け合うような一体感が心地好かった。
信号待ちに差し掛かると、袖にくるまれた手をヒサオが撫でる。
分厚いジーンズ生地越しだけど、体が覚えた直の感触を脳が再現する。
『ヒサオこそ気を付けて』
そんな思いで逆に手を重ね直す。
伝わったのかヒサオのメットがコクコクと動いた。
都内を抜け、多分30分もしないうちに休憩となる。
やはり体は慣れてなくて、ヒサオに抱えられて降ろされると脚がぷるぷるした。
「麻里絵可愛い。」
メットを外しながら笑うヒサオをやっぱり格好いいと思う。
悔しいけど支えられる腕を頼りにコンビニのトイレに向かった。
「ん〜、もう、どうしたら慣れるの?」
バイクに横座りに乗せられ、缶コーヒーを飲みながら聞けば、クスッと笑いながら、
「何事も回数こなすだけだよ。」
って、なんかエッチに聞こえてしまうのは何故だろう。
それを口にしようと見上げたら、コンビニの灯りがあるのに、チュッとキスがくる。
「ヒサオ…外なのに…」
「まだ、暗いし明るい方から俺達は見えないから。」
わかってて仕掛けてくるなんて憎たらしいけど反論する余裕もなかった。
「さあ、行くよ。街中を外れればどんどん暗くなるから、しっかり掴まってね。」
またエンジン音に包まれて闇に溶けていく。
見えるのは信号の色と互いの体温だけの世界に、
二人だけでいるような気分になる。
暗闇をバイクの灯りが切り開き、そこを二人で突き抜けていく。
ヒサオと二人、手を取り合って生きていく。そんな覚悟をした。