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きっかけは映画館
第40章 日の出
「麻里絵、一人だよね?」
「うん、お湯、気持ちいいね。」
「ああ、ちょうどいい感じだ。
こっちの壁際までおいで。
あ、あっちから陽が昇るんだな。」
白みがかった空の一部だけが明るくなる。
そこを示して伸ばした腕に麻里絵の手が絡みついた。
「不思議だね、私、日の出を見守るなんて初めてだわ。」
水平線との境目の空が、そこだけ明るくなっていく。
感動してヒサオの腕をギュッと握ると、ヒサオが手を繋ぐように変えてくる。
仕切りの壁板の前に伸ばした私たちの手は、塀を越えて繋がれている。
そのうち水平線が零れた光で輝いていく。
熔けた金属が流れ光るように、表面張力で伸びたように輝く光が溶けて溢れていた。