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きっかけは映画館
第40章 日の出
しまいにおばちゃんは店の外まで見送りにくる。
「へぇ〜バイクで来たんか、子供がいないから出来る技だねぇ。」
「は、はぁ、まぁ…」
麻里絵も何と答えたらいいか迷っている。
「どっかに一泊してから来たんかね?」
「いえ、日の出を見に深夜に出てきたんですよ。」
「はあ〜、そりゃ彼氏さん大変なこったぁ、まぁ若いから出来るんやね。
うちのじいさんなんか早々に引退して、ほら、漁にも出ずに陸に釣りにくるだけだわ。」
おばちゃんの示す方から一台の軽トラがやってくる。
「漁に出るだけ凄いじゃないですか。」
何となく麻里絵とおばちゃんの会話が噛み合っていない気がする。
「はあ?餌の要らん釣りだよ。こんな遅くに釣れる魚なんて、活きがいいわけないだろ?
さあ、あんたたちも気をつけて行きなよ?」
そう言って軽トラに乗り込んでしまう。
運転手は捻りハチマキをした真っ黒に焼けた男性で、旦那さんが毎日迎えにくるなんて、仲が良いじゃないかと思った。
トラックは小回りを利かせ元来た細い道を上がっていく。
「気をつけてなぁ〜」
窓を開けておばちゃんが叫んでいた。
「ヒサオ…釣りはどうなったのかな。」
「麻里絵、釣りってのは引退した旦那さんがおばちゃんを迎えに来ることを言ってたんだよ。」
「ああ、それで餌が要らないとか、活きが悪いとか…
ふふっ、でも、年をとっても仲良しよねぇ。」
「そうだな。仲良しだった。俺達も出発するか。」
コクリと頷く麻里絵にキスをしながらメットを被せて出発した。