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きっかけは映画館
第41章 二人のための岬
絶対に誕生日の前にプロポーズしたかった。仕事でお互い忙しいけれど、思い出になる形でプロポーズしたかった。
きっかけが最低だっただけに、やけにこだわった。
だが、まだ、まだまだ計画はある。
企画で人を喜ばせる仕事をしている麻里絵の誕生日とプロポーズはサプライズ尽くしにしたかったのだ。
家も通勤も一緒にいるから、悟られないように計画するのが一苦労で、会社や出張の合間に準備していく。
だから立花課長にもバレバレだったのだと思うけど。
立花課長といい、今朝のおばちゃんといい、勝手にフライングしないでくれと思ったけど、
麻里絵が喜んでくれればそれでいい。
まだ早いとか断られなくて良かった。
逸る気持ちを引き締めて、次なる目的地の宿までバイクで向かった。
「ヒサオ…何だか立派過ぎる宿じゃない?」
「そんな事ないよ、子供ができたらこんなところなかなかこれないしね。」
「もぅ…」
漁港のおばちゃんの言い分を真似たが、麻里絵は拗ねた言い方をしたけど、頬を染めて照れている。
サプライズなんだから、このくらいでなきゃって本心は、ひた隠しにして…
受付をすると仲居さんに案内され、本館の長い廊下を抜けて、飛び石のある庭を通りすぎて離れへと向かう。
「ヒサオ…」
麻里絵は俺のシャツの後ろ側の裾を引っ張り、贅沢とかなんとか言いたそうだ。
「フェアの前祝いとか、色々あるからいいの。」
そう言って手を引いて進んでいく。