- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
きっかけは映画館
第41章 二人のための岬
竹で組まれた床板に檜のお風呂、そこから見渡す庭は深緑に燃えて涼しげな風情を見せてくれる。
ヒサオに引き寄せられて包まれるようにして見た風景は、日常から引き離され何もかも忘れさせて寛ぎを与えてくれた。
「ヒサオ、結婚っていつ頃?」
「色々思うところはあるだろうけど、今はフェアがどうなるか、麻里絵はそれで頭がいっぱいでしょ?
色んな段取りがあると思うけど、二人で一緒に考えて準備していけばいいと思うんだ。
麻里絵は真面目で何でも自分で抱えていっぱいいっぱいになっちゃうでしょ?
麻里絵のいいところでもあるけれど、いつかパンクしないか心配だよ。
だからね、家のことは、一人で抱え込まずに一緒に考えていこう。俺達のペースで。」
「それを言うならヒサオだって無理しすぎじゃない?」
「ん…だからね、いつも一緒にいて、お互いのことを思い合っていきたいんだ。」
ヒサオが私の首筋に唇を当てて頭を肩に乗せてきた。
うん、ヒサオはいつも私を見て守ってくれている。
この人についていこう、一緒にいよう…と改めて思ったのだ。
「ヒサオ…あの…後ろ…当たってる…」
こんな時でも手厳しい麻里絵は健在だ。
「それは仕方ないよね、麻里絵と居るだけでこうなっちゃうのに、今週ずっとおあずけだったから…」
愚息が相槌を打つようにブルリと震えてしまうと、麻里絵は俯きながら笑っていた。
「でも、夜まで我慢する。」
と言えば声をあげて笑い出すが、一世一代の大仕事はまだ継続中だ。
「ヤバい、めっちゃ可愛い。凄く似合ってるよ。」
脱衣場で浴衣を身に付けた途端にヒサオに抱き締められる。
また、下腹部に硬いものが当たっていたけど、我慢しているんだと思って黙っていた。
「うわぁ、凄いお料理。」
「はい、地のものをふんだんに使っております。」
三人がかりで運ばれたお料理がお膳から溢れるほどに並ぶ。
仲居さんの説明だと伊勢海老料理が特にオススメで、お刺身、焼き物、蒸し焼き、天ぷらに、頭の部分がお味噌汁に入っているという。
その他のお刺身やお肉の陶板焼きと本当に盛りだくさんだった。