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きっかけは映画館
第41章 二人のための岬
「あれ、お部屋の電気、消して出たっけ?」
「ん、どうだろう。仲居さんが消してくれたのかな。」
スマホの明かりで照らしながら部屋に戻る。とりあえず麻里絵を座らせ明かりのスイッチを探すフリをした。
コンコン…
「失礼します。」
「はい、どうぞ。」
暗い中で待っていると、仲居さんが来たようだ。
ヒサオが明かりを点けないまま戻ってくる。
ん?
襖が開いてパチパチと弾ける音と先程の花火をミニチュアにしたような花火…
「お誕生日おめでとうございます。」
「まだちょっと早いけどね。」
花火と蝋燭の立った可愛いケーキが運ばれる。
「えっ…あっ…やだ、すっかり忘れてた。」
仲居さんとヒサオがバースデーソングを歌い写真を撮ってくれる。
「さあ、灯を消して?」
「あ、うん…」
ふうぅ…
「毎年お祝いしていこうね。」
「ありがとう。」
部屋の明かりがつけられケーキを前に二人並ぶ写真をもう一枚。
フルーツ盛りだくさんの可愛いプチホールケーキを仲居さんが取り分けて下がっていった。
「麻里絵、お誕生日おめでとう。」
改めてヒサオに言われた。
「そんな祝う歳でもないから…」
ちょっと恥ずかしくて言えば、
「そんなことないよ、幾つになっても、誕生日はお祝いするよ。麻里絵がおばあちゃんになってもね。」
「え〜っ、恥ずかしいよ。」
実際に恥ずかしいと思ったのは本当だけど、嬉しくもあった。
ヒサオとの未来が想像できる。ヒサオがずっと一緒にいると約束してくれているのだから…
「せっかくだからいただこう。」
食べるのがもったいないくらい可愛いデコレーションだけど、フォークで切り分け口に運ぶ、
フルーツの甘さと瑞々しさ、クリームの程好い甘さに幸せな気分になった。
「わざわざケーキ頼んでくれたの?」
「ああ、本当は明日だから、あともう少しだけどね。でも、誕生日前にプロポーズしたいって思ったから。」
「っ…本当に…ありがとう…嬉しい。」
「麻里絵、泣くことじゃないだろ。ケーキがしょっぱくなるぞ。」
「嬉し涙は甘いのよ。」
そう言って笑いながらケーキを食べた。
「これね、誕生日プレゼント。」
用意してた包みをテーブルに乗せる。
「もう十分過ぎるよ、ヒサオ。」
「いや、形に残るものも渡したかったから…」