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きっかけは映画館
第12章 商談


会社の人間が使わなそうな居酒屋の個室で、商談には薄過ぎるだろう企画書をテーブルに置き、飲みながら話し合う私達。

「やっぱりセオリー通りじゃないと上手くいかないんですかね〜」

「そんなことないわ。優希ちゃんの発想力は素晴らしいし、ちゃんと考えられてるもの。」

「でも、詰めが甘いから…」

「コンセプトは部の皆にも募ればいいわ。」

「××物産にはスイーツ部門が無いようなものだし、もう難しいですよね。」

「そんなことないわよ。一つの商社に絞る必要はないのよ。競合させることで価格も下げられるし、商品の幅も拡がる。例えば△△商事で取り扱いのないものを××物産に依頼するとか。」


ピローン…

「先輩、携帯、鳴ってますよ?」

裕司と別れてあまり鳴らなくなった携帯がこんな時に鳴る。

「はぁ…誰だろ。」

【麻里絵ちゃん、今、何してる?】

ここまで放置だったヒジオからだ。

「ちょっとごめんね。」

「いいですよ〜。」

優希ちゃんに断って返信する。酔いもあって既読スルーでよいはずだとか考えつかなかったのだ。

【今、駅前で飲んでる。】

ピローン…

【俺も今から飲むところ、どこにいる?ご一緒していい?】

【後輩と仕事の話をしてるから駄目。】

ピローン…

【後輩って男?終わったらどう?】

【女の子です、てかヒジオに関係ないし、明日も大事な仕事だから無理。
おやすみなさい。】

ピローン…

【わかりました。金曜日、空けておいてね。
おやすみなさい。】

しょぼーんとしたスタンプと共にあっさり引き下がるヒジオ…

何で今なの?何日も放置してたくせに…


「麻里絵先輩?」

「はい?」

「大丈夫ですか?」

「ええ、どうでもいい男友達。」

「そうですか?でも表情豊かで楽しそうでしたよ?」

「どうでもいいやつなのよ、とにかく明日はスイーツ部門があるんだから、もっと頑張らなきゃね。」

「はい。」

話も気分も上がったところで、私達は料理とお酒を堪能したのだった。



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